1889(明治22)年誕生以来、130年以上にわたって歌舞伎ファンを魅了しつづけている歌舞伎座は、現在、2013年4月に開場した五代目です。
教室の壁一面の窓から歌舞伎座が見える、という絶好のロケーションで、松竹の社員で脚本家の今井豊茂氏を講師に迎え、当月の演目を中心にお話が聞けるこの講座。
4月は今井先生が補綴で携わっていらっしゃる第一部【通し狂言 天一坊大岡政談】を中心にお話が進みました。
悪の魅力あふれる天一坊・・・市川猿之助さん
天一坊の参謀・山内伊賀亮・・・・片岡愛之助さん
天下の名奉行・大岡越前守・・・尾上松緑さん
という配役ですが、これまで
愛之助さん×猿之助さん
猿之助さん×松緑さん
松緑さん×愛之助さん
過去にそれぞれ2人での顔合わせはあったものの、猿之助さん、愛之助さん、松緑さんという3人が、それぞれ為所(しどころ)のある役をひとつのお芝居で演じるのは初めてなのだそう。
古典で繰り返し上演されている作品であったとしても、誰と誰が顔を合わせるかによって同じお芝居でも全然違うように見えるといった相乗効果が生まれることがある、いわゆる配役の妙。これもまた歌舞伎のひとつの楽しみ方。今回、今までにない顔合わせのお三方が、いつも以上に工夫を凝らしてお芝居を作り上げられ、素晴らしい仕上がりになっているとのことでした。
「天一坊大岡政談」の作者は、江戸と明治、二つの時代で活躍した狂言作者・河竹黙阿弥(かわたけもくあみ)。江戸時代中期に実際にあった“天一坊事件”を題材にして書き下ろした作品だそう。元は初代・神田伯山が得意とした人気の講談で、明治8年に歌舞伎座で初演以降、比較的上演頻度の低い演目です。
紀州生まれの山伏・法澤が、お三という老女を殺して御落胤(ごらくいん…正妻以外の女にひそかに生ませた子)の証拠を奪って8代将軍・徳川吉宗の子になりすまし“天一坊”と名乗ったものの、最後は名奉行と謳われる大岡越前守に裁かれるというストーリー。大岡越前守と天一坊の名参謀でもある山内伊賀之亮が対峙する「綱代問答(あじろもんどう)*」が最大の見どころですが、歌舞伎十八番のひとつでもある勧進帳の「山伏問答」ほどなじみがなく、その面白さが分かりにくいのも事実。
そこで、実際にお稽古で配られたという台本の一部を用いながら、セリフの応酬、俳優同士の駆け引き、見せ場の部分をじっくりと解説していただきました。耳だけで聞いても分からない舞台(文楽・舞踏なども)もの。『セリフの応酬は筋書きなどに前もって目を通しておけばより魅力が増すのではないでしょうか』と先生はにこやかにおっしゃいます。
その他、舞台稽古での俳優さんとの演出についてのやりとりなどのお話もあり、こういう話こそがこの講座の真骨頂。『これから観に行くのでその部分が実際にどうなったのか、見どころがたくさんですごく楽しみです』と、今回初めて受講された方からの感想。毎月歌舞伎鑑賞をされているツウの方はもちろん、これから深く学びたいという方にも演目の楽しみ方を丁寧に教えてくれる講座内容だからこそ、たくさんの方に支持され100回も続いてきたのではないかと思います。
5月以降もどんなお話が聞けるのか、とても楽しみです!
新たな100回、いや、1000回(!)に向けて今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
*将軍や高貴な身分の限られた者にしか使用を許されない乗り物“網代駕籠”に天一坊が乗ることの是非をめぐる大岡越前守と山内伊賀之亮の舌戦
※画像は4月に撮影したものです