新コラム【たまゆらあーと】Vol.1
この秋、パリ薫る渋谷へ

皆さま、初めまして。松井亜樹と申します。
『マダム・モネの肖像』(単行本2018年、文庫改訂版2020年、幻冬舎刊)では、クロード・モネと妻カミーユの出会いから別れまでを印象派誕生の軌跡と共に追いました。
これからときどき、開催中の展覧会やアートな話題をご紹介していきたいと思います。

アート展も受難?

世界がコロナ禍に覆われて2年近く。
芸術作品とのランデヴーは“不要不急”なんかじゃない!と思い知らされた日々でしたね。

国境を越えるのが難しくなったのは人ばかりではなかったようで、例えば、とっても楽しみにしていたアーティゾン美術館の「クロード・モネー風景への問いかけ」展は3度の延期を経て、現在会期未定のまま。理由は「フランスの重要作品を万全の体制によって理想的なラインナップで公開」できないと判断されたから。本国スタッフや警備員の同行が難しかったのかも知れません。見渡してみると、どの美術館も企画展の開催に苦心しているように見えます。

圧巻のラインナップを心憎い演出で

この秋、まだ観覧可能な展覧会の中で特に充実しているのは、Bunkamuraザ・ミュージアムの「ポーラ美術館コレクション展 甘美なるフランス」。
https://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/21_pola/

◇ポスター写真
モネやルノワール、ピカソやマティスにシャガールだけではない、むしろヴラマンクやデュフィ、ユトリロの傑作の数々に心踊る人も多いはず。印象派、ポスト印象派、フォービズム、キュビズム、エコール・ド・パリ。19世紀後半から20世紀前半まで、ポーラ美術館の誇る国内屈指のコレクションが並びます。

◇モネ睡蓮写真◇マティス写真◇デュフィ写真
それにしても、コロナ禍が一段落している今、箱根で観られる作品群をわざわざ渋谷で観る意味って?と首を傾げてしまう方もいらっしゃるかもしれませんね。
まず、これだけの傑作が一堂に展示される機会はポーラ美術館でも滅多にないでしょう。今回はさらに、作品の合間にルネ・ラリックやエミール・ガレによる香水瓶、パリジェンヌたちの化粧道具が並びます。化粧品会社ポーラならでは、そして、普段箱根では観られない画期的な展示です。
当時実際に使われた香水瓶や化粧道具が絵画作品の間に並ぶ、たったそれだけで、作品のモデルや、同時代の女性たちの気配が感じられるのです。渋谷にあって、まさに匂い立つ花の都パリ。これはぜひ味わっていただきたい贅沢なひとときです。

◇ルネ・ラリック香水瓶写真◇エミール・ガレ香水瓶

今日は何を着ていこう?

アート鑑賞に出掛けるときは、「何を着ていこう」というところから楽しみます。ココ・シャネルの映画を観に行ったときは、シンプルでスタイリッシュに。トーベ・ヤンソンの映画を観に行ったときは、どこか遊び心と少女らしさをという具合に。
この『甘美なるフランス』展の会場で、すらりと背の高い女性を見掛けました。襟の立った上質な仕立てのシンプルなトレンチコートを羽織り、中には深いボルドーのロングワンピース。豊かなオフタートルがゴージャスです。そして彼女が歩くたび、ちらりと覗くコートの裏地には派手なモノグラムの模様がありました。そのマチュアな雰囲気が会場にピッタリ! 心の中で拍手です。
ファッションも、アート作品とのランデヴーを盛り上げてくれますね。

渋谷でパリを満喫したなら、いつかロマンスカーと登山鉄道を乗り継いで、深い森に吸い込まれるようなポーラ美術館のエントランスをくぐり、かの傑作たちとぜひ再会してください。絵は、額縁によって見映えが変わるように、置かれている環境によっても放つ光が変わります。

〈追伸〉
ショップに立ち寄ったら、拙著『マダム・モネの肖像』を販売してくださっているではありませんか。ちなみに原田マハさんの『ジヴェルニーの食卓』のお隣に置いてありました^^

◇Bunkamuraミュージアムショップ写真

※単発、シリーズ、養成系など講座ごとに費用が異なります。